悪い奴ほどよく眠る

「この世は荒野だ」と呟く三船


主人公の三船と親友の加藤武が、戦争の爆撃で廃墟と化した工場跡の荒野で話をしている。敗戦がもたらした荒野の光景が彼らのモチベーションの原動力となっているのだ、廃墟から全てが始まった。懐かしそうに周りを見渡す二人「この世は荒野だ…」と思っているのかもしれない。
「この世は荒野だ」ンー、中々いい言葉だな… んッ? …まてよ、これって …「サル・まん」いや、元ネタの「野望の王国」? おおっ!傑作劇画「野望の王国」の骨子が「悪い〜」とソックリじゃ!
その前に「野望の王国」の説明をせねばなるまい。一番簡単な紹介は竹熊・相原両先生の名著「サル・まん」の元ネタ、だがこれでは説明になってないな(笑) 簡単に言うと、東大在学中の男がヤクザと言う暴力組織(しかも実家)と知恵と才覚をもって日本を支配する、人間の想像力の限界に挑戦した、北斗の拳も真ッサオな傑作劇画である。最近復刻されたので、その「狂いっぷり」をジックリと味わって頂きたい。
さて「野望」の主人公二人は固い友情で結ばれていて「刎頚の交わり」と言える中である。片岡仁は公務員を父に持つ普通の家庭で育った。橘征五郎は神奈川県下ナンバー1の暴力団の息子である。優秀な二人共々影の部分があり、片岡仁は公務員の父親が汚職の責任を擦り付けられ自殺してしまい、それ以後日本の官僚機構に対し非常に憤りを持つ様になる。橘征五郎は暴力団の息子とは言え、実は妾腹の子供。大変優秀で人間的にも大きな器を持っているのだが、「日陰者」である故辛酸を舐め尽くし、本妻の兄弟に対し異常な怒りを持つ様になる。一見接点が無く見える彼らだが、現実に対する憎しみと言う共通点から共感を覚え、同じ野望を持つ者として共闘するようになるのである。この「自殺」と「妾腹」だが、映画内の三船の設定でもあるのだ加藤武との中も「刎頚の交わり」と言える中だ。
実の兄(唯一尊敬できる兄・当然妾腹)が取り仕切る「組」を、彼らは学生の身分ながら重大事考を取り仕切る幹部として働くが、だがその裏で自分たちの野望を実現せんと兄(組長)を追い落とす画策もするのである。これは三船の立場と全く同じではないか? 三船は公団の副総裁の秘書として働いているが、実は副総裁の持つ巨悪を世間に暴露し復讐を遂げんと、その証拠集めに日々奮闘しているのだ。
これ以外にも「野望の王国」で起こるエピソードには、「悪い〜」からネタ採ったとしか思えない部分がかなりあり、実質的原作だと言っても不思議じゃない(笑) 暇な方は旧コミックスで28巻、読破してみてはいかがでしょう。
仕様
東宝ビデオ発売。シネスコ・モノクロ・デジタルモノラル・CX。初期のハイビジョン変換のせいで動画部分の残像が目立つ。やはり黒沢好みのコントラストがややキツイ画質だと思うが、DVDでは大分改善されているようです。しかし、値段が高過ぎる。二枚組三面だとパイオニアのLDであれば5千円以内で購入可能だ。勿論豪華なボックスとか関係者の詳細な発言が掲載されていたり、まあ「宝物」的商品にしているが、貧乏ユーザーの為に安価版も同時に発売する配慮が必要だったンじゃないかね。DVDも高いしな。