キングコング対ゴジラ

超カッコイイ初版ジャケット

東宝創立30周年記念作品だけあって金のかかり方が半端じゃない。将に東宝特撮映画の金字塔。次に創った「モスラ対ゴジラ」とでは制作費の差が歴然だし、娯楽映画としての怪獣映画で、この作品を超える物はもう作られないだろう。唯一匹敵するとすれば「平成ガメラ」シリーズだけか、本家「平成ゴジラ」は問題外、てのは本当に問題だ!
この映画の基本はコメディなのだ!
有島一郎扮する多胡部長がキングコングを日本に連れてこい!」なんてガキの思い付き言わなきゃ大事にはならなかったはず。少なくともキングコングが壊した建物の被害は無かったわけ。会社命令で仕方なく出発した高島(父)はエライとばっちりである。パシフィック製薬はコングに対する責任を負わされ、経済的大損害を被り、多胡部長は会社首になったのじゃないだろうか? しかし東宝もヤルね、キングコングの商標使用権を買ってくるとは当時それだけの経済的裏付けがあったンだねぇ。
ファロ島でのミュージカルシークエンス、日劇ダンシングチームによる「モスラ」の祈りのシーンに匹敵するモブシーン。加えて根岸明美による(昭和の)ナイスバディ炸裂のダイナミックなダンス。このシーンだけでも今の日本映画界では作れないね、今じゃレビュー中心の劇団がないからな。
ゴジラキングコングが日本に上陸してからはシリアスな対怪獣作戦。(と言うより戦争映画)田崎潤、桐野洋夫、山本廉、といったいかにも軍服が似合います、てな本多組常連役者たちのキビキビした演技。本当の自衛隊の撮影協力もだてじゃない。
絶対必要なのが、避難する人々のモブシーン。これが無い怪獣映画はどんなに特撮が良くてもダメ。現実に置き換えれば象一匹、いや猿一匹街中に逃げ出しただけで大変な騒ぎになるのはご存知でしょう。だからもし、50mも有る化け物が街中うろついたらいったいどうなるか? それこそ天変地異並の大騒ぎになるよ。
危機的状況の中お互いを見つけ出そうとする恋人同士。佐原健二浜美枝の引き裂かれそうになった二人の必死の行動(将に熱演)。恋人を探し、一人ジープを駆ける佐原健二の命がけの行動は、本多監督の従軍体験が案外ベースに有ったりして。
軍民一体の理想的防衛作戦?と思えるキングコング輸送作戦のくだり。民間人がアイディアを出し、田崎潤扮する東部方面総官が現場で即座に決断を下すと言うのは実際の自衛隊ではまず有り得ないだろう。描写されるのは旧陸軍経験の有る本多監督が理想とする「東宝自衛隊」。キビキビと行動する彼らは「プロフェッショナルな人々」とのみ描写され、国家の手先岡本喜八監督の「ブルークリスマス」とか)や、政治的野心山本薩夫監督の「皇帝のいない八月」とか)と言った精神的バックボーンを一切持たない、純粋に「国防」のためだけの軍隊として描かれる。(これが本当の軍隊じゃないの?)
伊福部昭の音楽。ゴジラ映画でどの作品の音楽を選ぶか? と問われたら即座にこの作品を挙げる。同時期の「釈迦」と比較しても真摯な作曲姿勢は変わらず、大衆娯楽作品も社会派作品も同等である
東宝が言う公式な情報によると上映には使用されていないと言う事になっているが、ゴジラ映画初の4chステレオ作品だ。LD及びビデオはステレオ収録だが、DVDはオリジナル4chを収録した上、ドルビー5.1サラウンドにミックス、さらに迫力が増したぞ。
トータルに見た本多猪四郎監督の演出力。バラバラに見える演出素材を全く違和感無く一本の映画にまとめ上げてゆくのは奇跡と言える。一見するとこれと言って際立った演出方法は無い様に見えるが、実は誰にも似ていないそのスタイル。例えば「ガス人間第一号」を見ればよくわかる、「銀行強盗」「家元」「体を気化出来るバケモノ」こんな脈略の無い素材を、何の違和感も無くまとめ上げられるのは本多監督だけ。
雄大さと繊細さを併せ持つ円谷特撮。(最終的な編集の権利は本多監督が持っているが)クライマックス、熱海城をはさみ両者格闘するが、もし引いた画面で写っていたら、格闘にあわせ積み木の様にガラガラと崩れてゆく熱海城が写ってしまい幻滅してしまうが所だが、さすがは円谷監督、スピーディに動く両者をアップで交互にカットバックし、動物としての敏捷な動きを強調しておきながら、途中にハイスピード撮影で重量感たっぷりに崩れてゆく熱海城を挿入しリアリティを損なわないようにしている。
将に国民的怪獣映画、国宝にする為文部省に申請だぁ!
仕様
知っての通り、「東宝チャンピオン祭り」での上映の為に短縮再編集された不幸な過去がある。
LDは二種類あるが、実際は三種類である。私も三枚所有する馬鹿です。
最初に出したLDがNG版だったのは、東宝LDに詳しい人なら周知の事実だ。。どうNGだったのかと言うと、大きな編集ミスがまず映画冒頭にある。地球儀が回転して始まる視聴率5%のTV番組「世界驚異シリーズ」、田武謙三が「貴方もご存知でしょう!」と画面に向かって指差す前に地球儀の回転が二度繰り返される初めてこのLD観た時針が飛んでループしたのかと思ったぜ。それ以外にも細かい編集ミスがあるようだけど省略。音の編集にも大きなミスがあり、35m素材部分と16m素材部分の音の繋がりが変で、一応全長版で残っていた磁気音響素材を使っていないのは明らか。で、二枚目として以上のミスを修正した復元全長版LDを大急ぎで完成させた。東宝ビデオはビデオ誌に不良交換を告知したが誰も交換しなかったらしい(笑) 
(東宝ビデオの不良ミスは「七人の侍」のLD、DVDでも知られるね。LDではチャプターの設定ミスがあり、DVDでは志村喬が同じ台詞を二度繰り返すミスがあった)
シネスコ・モノラル。左右が若干切られている。
三枚目はデジタルマスター。行方が判らなかった紛失部分の35m素材を発掘し全長版として復元した。4ch音源をレストアしてステレオ化。所有のアンプでサラウンド再生しても、後から音があまり聴こえないのは、4ch→2chへのミックスダウンがされてない証拠だと思うが、専門家じゃないから断言できないッス。
シネスコ・デジタルステレオ・マルチオーディオ・CXステレオ。アナログ音声が本編音声で、デジタル音声は伊福部昭の音楽のみ。DVDには劣るがそれでもキレイな映像である。このシネスコは「完全シネスコ」だそうで、モニターによっては左右のマスクが見えるとの事。